理系のための実戦職場コミュニケーション術

ラボ・ダイナミクス―理系人間のためのコミュニケーションスキル

ラボ・ダイナミクス―理系人間のためのコミュニケーションスキル

  • 作者: カール・M.コーエン,スザンヌ・L.コーエン,Carl M. Cohen,Suzanne L. Cohen,浜口道成,三枝小夜子
  • 出版社/メーカー: メディカルサイエンスインターナショナル
  • 発売日: 2007/05/01
  • メディア: 単行本
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この本は、組織やチームのなかで生き残り、成功するためのコツを知りたいと思っている科学・技術分野の研究者や技術専門職のための本である。
〜「はしがき」より

これは面白かった。
スーツとギークの対立、というお馴染みの構図があるように、やはり欧米でも「理系人間のコミュニケーション」というのは問題視されているようです。
しかしそこは何でもメソッド化してしまう形式知文化圏。理系文系問題に喘ぐ日本を尻目にさっさと一冊にまとめてしまった。
この本の長所・特色は、なんといっても心理的な洞察が秀逸であること。
豊富なケース研究もお得なのですが、それぞれの事態における関係者の「心の動き」が丹念に追われていて実にナマナマしいのです。
そして議論の進め方も経営学というよりは行動科学的で、大まかな流れは

1.科学・技術者が自分の感情と行動を「観察する」ことの重要性と方法
2.他者の利益と関心を把握して交渉する技術
3.上司および同僚との交渉・関係構築について
4.大学院におけるコミュニケーション問題
.学術機関と民間企業
6.「サイロ思考」を脱して組織の生産性を上げるには

といった按配。
ケースとしては例えば

  • 優秀だが暴君的なチームリーダーの処遇
  • 同僚に常に批判的な技術者
  • 挑発的言動をやり過ごす方法
  • 上司の不満に対処する
  • 専門家の縄張り争い
  • 学生を侮辱する教授

etc, etcで、理系をやっていると一つや二つや三つは思い当たる節があるんじゃないでしょうか。
科学者におけるコミュニケーション不全の有名な一件は、例のワトソン/クリックとロザリンド・フランクリン。フランクリンの上司であるランダルや同僚ウィルキンズは、女性であるフランクリンを一人前に扱うことをしなかった。彼女は殻に閉じこもり気味になり、結果彼らの研究グループは2重螺旋を示す重要データをうまく共有できず、ワトソンらに美味しいところをもっていかれてしまいます。
日本も20年遅れでやっとこさDr'sイノベーションなる試みを始めたみたいですが、まず本書を理系大学院で必修にすべきかと。
少なくとも、ラボに一冊は欲しい良書といっていいでしょう。
はてな論壇界隈にもお役立ちかもね。