日米大学連合にみる提言力の差

文脈も違いますし、理学部長会議と大学協会の差もありますから、単純に比較するのはフェアではないと思いますが。
まず、11月23日に提出された全国10大学理学部長からの提言。
国立大学法人10大学理学部長会議の緊急提言

私達,国立大学法人10大学理学部長会議は,まず,事業仕分け前半でなされた科学技術・学術研究や次世代人材育成に関わる事業に対する判断の再考を求めます。事業仕分け後半においては,“短期的成果主義”から脱却し,基礎科学が有する特徴と,基礎科学を担っている国立大学法人を含む学術機関が置かれている現状に十分に配慮し,適切に判断されることを強く望みます。科学技術創造立国を目指す我が国が,人類の持続的繁栄に世界の先頭に立って貢献していくという観点からの議論を願うものです。

若い人にまっさきに任期制を導入しておいて「“短期的成果主義”から脱却」もなにもないだろう、というツッコミはさておき、総論として間違いではないでしょう。
ただ、日本のおかれている状況とか、社会的な問題とか、世界的な動向にはあまり触れられていませんし、国の戦略にどうコミットするか、という意思はほとんど感じられません。
一方、昨年米国大学協会がオバマ新政権あてに提出した提言書はこちら。
オバマ次期大統領への政策提言*1

本書は、全米大学協会(AAU)会長からオバマ次期大統領(当時)に向けて送付された提言書である。冒頭に大統領選挙期間中における科学技術に対する姿勢や、早い段階のJohn Holdren大統領科学技術顧問の氏名などに謝意を示したうえで、大統領府の科学技術政策室(OSTP)、管理予算室(OMB)、そして省・機関に対する提言を示し、同協会がオバマ次期大統領及びその政権移行チームに対し政策形成において積極的に関与したいとする意向が示されている。

・基礎科学研究に対する持続的でバランスのある成長に必要な政策を提供すること
連邦政府イノベーション、科学、工学の資源を、国家が立ち向かう大きなエネルギーと環境の問題の解決に利用すること
・大規模な科学技術工学数学(STEM)教育イニシアチブを開始すること
・大規模なイノベーション加速イニシアチブを開始すること
・現在の国防先端研究プロジェクト庁(DARPA)の構造と運営に関する評価を実施すること
代替エネルギーの発見は国家安全保障において重要であることから、大統領府はいずれの主要な分野横断的エネルギー研究イニシアチブにおいても国防省がエネルギー省とともに重要な計画及び資金配分面における役割を担うことを確実にすること
国防省の国家国防教育プログラム(NDEP)を拡充させること
・科学者の治療・治癒への探索能力のみならず米国の科学的・技術的な他国との競争能力を妨げることとなっている現行の連邦政府によるヒト胚性幹細胞研究への規制を終結させること

基礎研究はもちろん、産業政策からエネルギー問題、国家安全保障までみっちりと押さえていて、国家戦略に対する提言として実にパワーがあります。
別にナショナリズムを称揚するつもりはありませんが、国家予算に対する提言、という文脈であれば後者に説得力があるのは否定できないのではないでしょうか。
学問や基礎研究が重要なことはいうまでもありません。
が、日本の大学にはそういった学問への情熱に加えて、このような戦略性がいま求められているのではないか、と強く感じました。


追記大学の研究力と学術の未来を憂う(共同声明) ノーベル賞受賞者、フィールズ賞受賞者による声明 が出されたようです。