アメリカの科学教育は76ヶ年計画で着々と進行中。
納豆だの波動水だの血液型だのに沸く日本列島。
安部首相率いる現政府は「識者」達の「教育再生会議」を招集し、実にステキな対策や提言を通じて教育改革に取り組んでいます。
一方、アメリカにおいては既に1985年から大規模な教育改革プログラムが発動しており、現在も進行中です。
その名も"Project 2061"。
Project 2061は、先日も書いた最強の民間理系支持団体AAASを中心として、様々な分野の専門家を集め国ぐるみで作成された一大プロジェクトであり、全アメリカ国民の科学的思考力を増進するための76ヵ年計画を米国全土、あるいは州レベルにおいて遂行せんとする極めて戦略的で具体的なプランです。
Project 2061ではまず、Science for All Americansという報告をまとめ、「科学」とは何か、そして国民が身に付けるべき「科学力」とはどういうものであるか、について徹底的に分析しています。
その冒頭には科学の基本として、
- The World Is Understandable
- Scientific Ideas Are Subject To Change
- Scientific Knowledge Is Durable
- Science Cannot Provide Complete Answers to All Questions
すなわち、
- 世界は理解可能である
- 科学的認識は変化するものである
- 科学知識はすぐには陳腐化しない
- 科学は全ての問いに答えられるわけではない
が掲げられています。
いや、実にまっとうで骨太ですな。
さらに、科学の性質として
- Science Demands Evidence
- Science Is a Blend of Logic and Imagination
- Science Explains and Predicts
- Science Is Not Authoritarian
- Science Is a Complex Social Activity
- 科学は証拠を必要とする
- 科学は論理とイマジネーションの混合物である
- 科学は説明と予測を与える
- 科学は権威主義ではない
- 科学は複雑な社会的行為である
いや全くその通り。科学=論理としないあたりも流石です。ああ、教育のエライ人全員に爪の垢を煎じて飲ませたい。
これは、科学哲学の専門書ではありません。
アメリカ国民があまねく身に付けるべき科学的素養の基礎と位置づけられているのです。
以下、数学、化学、物理学、生物学、地学、社会科学など、様々な科学分野間の関連やそれぞれの特性について論じ、科学教育として何を達成すべきか、すなわち「科学教育のゴール」を設定し、数十年に及ぶ教育プラン達成のための各マイルストーン・ベンチマークを定めています。
AAASは政府に対して強い影響力を持ちますが、同時に現場の科学者、エンジニア、教員、学生からなる民間組織です。従って、現場を知らないご隠居が妄想を垂れ流すこともなく、また政局によってあっちからこっちと振り回されることもない。
まさに国全体がAAASを中心に有機的に結合して「科学教育」を実践しているといえましょう。
確かに米国には日本と比べ、宗教や言語、階層など科学と教育を阻害する要因がはるかに多いといえます。
しかし、それを超える科学への圧倒的な「意志」があります。国全体で科学教育にかけるコストがケタ違いですし、なによりも長期のプランを作成し、広く結束してそれを実行する力がスゴイ。
日本が議論の名を借りたアジテーション合戦を繰り返しているうちに、向こうではちゃくちゃくと地道な「科学力」が育っているということですね。
ああ、これでは勝てないのも無理はない。
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