混合医療はむしろ先進医療に問題点あり

ニセ科学が日本の医療を食い散らす日
わたしも現時点での混合医療解禁には反対ですが、オカルト医療に関してはそれ程心配してなかったり。
ああいうものは正当の医療で認められていないからこそ神秘性があるわけで、いろんなところでフツーの治療と並べて出されると神通力を失うんではないかな。結局ほとんどは無害なマッサージやカウンセリングになると思います。もちろんtikani_nemuru_Mさんの懸念はもっともではあるけども。
わたしが問題だと思うのはむしろ混合医療で導入されるといわれる「先進医療」の方。
まず言葉の問題ですが、「先進医療」の多くは確かに先進な知識と技術を用いています。たとえばガンの免疫療法や粒子線治療が代表的ですね。
ただし、知識が先進だからといって効果が先進とは限らないのが医療の難しいところ。
どんなに知識や技術が高度だろうが先進だろうが、最後にその価値を決めるのはあくまでも人体です。かつて先進医療のホープだった遺伝子治療が発ガン性により停滞してしまったのを見るにつけ、安易な使用はかえって未来を閉ざしてしまうおそれがあります。
混合医療解禁により先進医療が使いやすくなる、というのは決してそのまま喜べる事態ではありませんし、先進医療の抱える問題点を解決するどころか悪化させるかもしれないのです。
問題点とは、主にこの2つ。

1.治験の遅さ(ドラッグ・ラグ
2.治療法の運用の問題

1.治験の遅さ

先進医療の中には、すでに欧米では使用されて実績を上げているものも存在します。そんないいものならすぐ導入すればいいじゃないか、と思うかもしれませんが、上で書いたように決めるのは人体。そして人の体質には微妙ではありますが地域差というものが存在します。欧米人と日本人では、体格も生活習慣も違います。ちょっとしたビタミン剤ならともかく、重大な結果をおよぼす医薬品については国内で治験をしなくては使えません。
これが遅い。
海外での承認から日本での承認まで、だいたい4年の開きがあるといわれています。
慎重に検討すべきこととはいえ、4年はさすがに遅すぎる。この遅さは海外からの導入の際だけではなく、国内で新薬やバイオベンチャーが育たない大きな要因の一つとも言われています。せっかく製品を創っても審査だけで他国より4年遅れていては、グローバルな競争はできませんよね。
なんでこんなに遅いのか?
資料はこのあたりに詳しいのですが、

大雑把にいうなら

  • 人材の不足
  • コミュニケーションの問題

という、まあ日本のどの分野でもお馴染みの。
治験を行うには製薬サイド、医師サイド、国サイドにそれぞれ医療と科学に通じた人材が相当数必要なんですが、まずそれがどのサイドにおいても全然足りていない。たとえば国の審査員数は日本で200名程度ですが、米国では2000人以上います。
もちろん国は増やす増やすといってはいるのですが、そのためのインセンティブをちゃんと考えてるかというとまだまだ心もとないですね。
また、人数がいればいいというものでもない。コミュニケーションにも難があります。
日本では旧来、「治験総括医師」がたてまえ上、治験の権限と責任を一手に担う形式だったのですが、実質は製薬会社がほとんどの作業を行っていたようです。そのため責任の所在があいまいになり、ソリブジン事件*1のような悲惨な結果も招きました。
そのため現在では責任を明確に治験依頼者、つまり製薬会社としたのですが、これはこれでややこしい。製薬会社は治験に関して医師側を監査・モニタリングしなくてはならないのですが、医師は会社にとって大事な顧客でもあるわけです。
また治験を受けてくれる患者さんとのコミュニケーションも問題です。もちろんそこまでにいろいろな試験をすでにパスしている薬品、治療法ではありますが、一種の人体実験であることには違いありません。過去に治験での死亡例もあります。医師-患者間に強い信頼関係がなくては合意を得るのは難しいでしょう。
治験問題は本当に重大で幅広いので、これだけで長くなってしまいました。これだけの問題を抱えた治験を改革する前に、ホイホイと混合医療解禁で先進医療を導入してもロクなことにならないよ、ということですね。
治療法の運用の問題については次回に書き足します
ではとりあえずはこの辺で。

*1:日本商事が開発した帯状疱疹治療薬ソリブジンが、1993年9月の発売後1年間に15人の死者を出した事件。その後、治験段階で投与された患者3人が死亡していたことが判明した。また、最初の死亡例が日本商事に報告された9月20日から約3週間の間に、同社社員175名が同社株を売却していたことがわかり、インサイダー取引容疑で捜索された。