続・NATROM氏はどこで道をあやまったのか〜”allergists and other specialists”とはだれか〜

承前。http://d.hatena.ne.jp/sivad/20130809/p1
さて、先日のエントリにNATROM氏から、興味深いコメントをいただきました。

NATROM
"thorough workup"の訳は確かにまずかったけど、これが意味するのはアレルギー等の既知の疾患の検査のことです。だから臨床環境医ではな く"allergists and other specialists"にコンサルトしろとあるのです。
http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/sivad/20130809/p1

おや、claimやsuspectやゴールドスタンダードの件はどうなりました?
ともかく、これは先日の
http://www.epa.gov/iaq/pubs/hpguide.html#faq1

The current consensus is that in cases of claimed or suspected MCS, complaints should not be dismissed as psychogenic, and a thorough workup is essential.

化学物質過敏症であるとの患者の訴えや、その疑いがある場合には、そういった訴えを精神的なものとして却下するのではなく、包括的な検査をすることが不可欠である、というのが現在のコンセンサスである。』

の後にあるセンテンスのことでしょう。訳してみましょうか。

Primary care givers should determine that the individual does not have an underlying physiological problem and should consider the value of consultation with allergists and other specialists.

プライマリケア*1にあたる者は、患者に生理学的問題が潜んでいないことを確認し、そしてアレルギー医や他の専門家の診察を受けることの意義を考えるべきである。』

そしてこれには、Who are "clinical ecologists"?の項が続いています。

Who are "clinical ecologists"?

"Clinical ecology", while not a recognized conventional medical specialty, has drawn the attention of health care professionals as well as laypersons. The organization of clinical ecologists-physicians who treat individuals believed to be suffering from "total allergy" or "multiple chemical sensitivity" -- was founded as the Society for Clinical Ecology and is now known as the American Academy of Environmental Medicine. Its ranks have attracted allergists and physicians from other traditional medical specialties.

『臨床環境医とはだれか?
臨床環境医学は、主流*2伝統的な医学の専門領域とは認識されていないが、一般人と同様、医療専門家の注目を集めている。臨床環境医、つまりトータル・アレルギーあるいは多種類化学物質過敏症によって被害を受けていると考える患者を治療する医師、の組織は、臨床環境医学会として設立され、アメリカ環境医学アカデミーとして知られている。その構成員は、他の伝統医学の専門領域から、アレルギー医や内科医を集めてきた。』

さて、いかがでしょうか。
臨床環境医学はAMAで主流*3な枠組みとしては認識されていなかった、これがおそらくワンクッション置いて”allergists and other specialists”とした理由でしょう。
しかしながら、その後を読むと、排除どころか擁護的に書かれていることがわかります。
臨床環境医学は一般人のみならず、医療専門家の注目を集めているということ。
clinical ecologistsをphysicians(正規の医師)と書いていること。
臨床環境医学会には、アレルギー医や内科医が集まっているということ。
つまり主流と認識されてはいないが、単なる素人の集まりではなく、専門性をもった集団であることが強調されているわけです。"allergists and physicians"〜のくだりも、”allergists and other specialists”に対応して書かれているのでしょう。排除したければother conventional specialistとでもすればいいことですが、そうせずに、直後にこのような擁護的記述を続けている。
つまり、非常に慎重な書き方ではありますが、これらは臨床環境医を排除するための記述ではなく、むしろ”allergists and other specialists”と”clinical ecologists”が重なり合っていることを認識してもらうための文章だといえるでしょう。conventionalと認識されていない、という点だけで判断するのは早計です。

ではAMA1994年勧告におけるこれまでの内容を、簡単にまとめてみましょう。

1.化学物質過敏症の訴えや疑いがあるなら心因性とせず、包括的な検査を行うべきである
2.患者に生理学的問題がないことを確認したら、アレルギー医やその他の専門家の診察を受けさせることも考えるべき
3.臨床環境医学は主流な専門領域としては認識されていないが、専門家にも注目され、臨床環境医学会にはアレルギー医や内科医が集まっている

このように、ここでは、臨床環境医は診察を受ける対象として排除などされていません。きちんと読めば、慎重にはあつかっていますが、むしろその意義を擁護している文章だということがわかるでしょう。

ここでもやはり、NATROM氏はAMAの勧告を反対方向に受け取ってしまっているわけですね。

まとまった訳はこちらに置きました。
http://d.hatena.ne.jp/sivad/20130912/p1

*1:http://www.ninjal.ac.jp/byoin/teian/ruikeibetu/teiango/teiango-ruikei-c/primarycare.html

*2:conventionalはこちらhttp://www.cancer.gov/dictionary?cdrid=449752にしたがい、主流と訳します。以下、それに応じて修正しました。大変失礼しました。

*3:ただし、こういった枠組みは各国で異なっているようです。http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/sick_school/cs_kaigai/mcs_Danish_EPA.html