セックスは生殖のためにあらず

とまでは言いすぎなんでしょうけど。
Inspired by 日本及び海外婚姻事情.
大体、「種の子孫を残すため」にしては「セックス」という行為は手間ヒマかかりすぎると思いませんか?
有性生殖が大事ならチャッチャと手早く済ませればいいものを、ことに高等動物の「セックス」というやつは何かと面倒な手続きが多い。
何故か?
それは、セックスとは「性淘汰」における「戦場」だからなのです*1
戦うのは誰か?
そこには二つの戦いがあります。
1.異性間での戦いと、2.同性間の戦いです。
異性間の戦いとはつまり「いかにうまく異性を惹き付けるか」であり、同性間の戦いとは「いかにうまく他の同性を出し抜くか」の争いを意味します。
ただ高等動物の場合メスが出産や産卵というコストを担っているため、そこには非対称性が生じます。

  • 1.においては、オスはいかにメスを惹き付けるか、そしてメスはいかに自分(の子)に都合のよいオスを選別できるか、という競争が生まれます。
  • 2.においては、特にオス間での競争が激化します。

例によってクジャクの羽を例に取ると、オスはおそらくはたまたま生じたメスの「好み」、つまり派手な尾羽を好むという性質を利用し、メスを惹きつけようとします。また他のオスに負けないように軍拡が進み、オスの尾羽はどんどんデカくなっていきます。
そしてメスは確かに大きな尾羽に惹かれますが、実はそのオスに貞淑なわけではありません。隙をみてやってくる他のオスとも交配しており、そういった「狡猾な」オスの遺伝子を取り込むようにしているのです。というか、そうやっているからこそポジティブフィードバックが加速する「性淘汰クラッシュ」から逃れているのでしょう。
では人間を含む高等霊長類はどうか。
睾丸の重さ、ペニスの長さ、性交時間を比べると、大体以下のような平均になるそうです。
それぞれグラム、cm、秒です。

ヒト            14   12.7   240  
チンパンジー      110   7.6   15
ゴリラ          4.5   3.2    60

ここから何が分かるか。
まず、チンパンジーは非常に大きな睾丸を持っています。これはつまり、オスがばら撒き型の生殖をしていると解釈できます。実際、チンパンジーはオスもメスも乱交を行うことが知られています。オスもメスも数でカバー、というわけです。
一方ゴリラはその巨体に比して小さな睾丸、小さなペニスを持っています。これはオスがばら撒く必要もなくメスを確保できている、つまりオスが強い権力を握っていることを示します。実際にゴリラは一夫多妻で、そのオスは非常に大きく強大です。
では人間は・・?
睾丸はほどほど。少なくともチンパンジーほど乱婚ではなさそうです。
一方ペニスはやたらでかく、性交時間も長い(どちらもゴリラの4倍!)。
実はこれ、「セックスという行為によってメスがオスを選別している」可能性を示唆するのです。
クジャクの尾羽のように、オスが性淘汰によって発達させる部位は基本「メスに選ばれるため」のものです。
人間の男性はゴリラのオスほど強大ではありませんし、チンパンジーのように乱婚でもない。しかし、なんと「セックスそのもの」で戦っていたのです!*2
男性が達しやすく、女性が達しにくい理由も一応これで説明できます。女性が達しにくいのは、それで「男性を選別するため」なのです。「下手な男はダメね」と。
ただ、冒頭リンク先を読んだ感じですと性淘汰の実情もお国それぞれなようで。
上記のようにセックスが未だ「戦場」のところもあれば、どうやら戦線がどっかに移動してしまった日本のような国もある。
まあ性淘汰こそが文化を生み出したという説もありますので、多様性を失わない範囲で楽しむのが吉、なんでしょうね。
どっとはらい


追記こんな話がお好きな方は是非

ドクター・タチアナの男と女の生物学講座

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*1:あくまで一つの解釈としては、ですが。

*2:ただし、男性が社会的権力を手にすると状況は変わり、女性も選別されるようになります。