低線量被曝による鼻血について考える

ごく簡単ですみませんが、ツイッターよりは多少ましということで失礼します。
まず、事故直後の鼻血は、関東圏の汚染程度であれば、機序からして、被曝による血小板激減や、白血病からのものである可能性は極めて低いと考えられます*1
いろいろな解説にあるように、被曝で直接血小板が激減するには一般に高い線量が必要ですし、また被曝による白血病が顕在化するには最低数カ月の時間が必要だからです*2


では、放射性物質と鼻血は関係ないと断言できるか、というと、それも性急すぎると思われます。
まず、前回書いたようにICRPのとる閾値なしモデルで考えた場合、線量が低くても、大勢が被曝すれば、運悪く一定の被害が出ることが予想されます。
まあこれは大雑把な予測モデルであって、詳しい機序は議論のわかれるところですが、低線量でも大勢が被曝すれば、さまざまな条件が重なって、大きな影響が確率的に出ることがある、とのように考えればよいでしょう。


鼻血が出るメカニズムははっきりしませんが、血小板関連でないのであれば、鼻の粘膜でなんらかの炎症が起こっている、粘膜が膨張している、薄くなっている、乾燥している、などが考えられます。
放射性物質の付着でこういうことが起こるか?という点ですが、放射性重金属が粘膜に付着すれば重金属による小胞体ストレスや、ラジカル生成による酸化ストレス等のさまざまなストレスを生じますし、炎症等の影響をおよぼす可能性は否定できないと思います。もちろん、上に書いたように、もともとの粘膜の状態など、+諸条件が加わって顕在化するのかもしれません。
断定はできませんが、仮にこういう機序であれば、それなりの件数発生してもそれほど不思議ではないでしょう。少なくとも、あり得ない、というほどではない。
むろんこれらは、アレルギーや感染など、放射性物質以外の理由でも起こりうることですが、それらを外見で簡便に区別するのは難しいでしょう。両方起こっているかもしれません。
ただ、仮に放射性物質の影響であっても、これらは鼻粘膜への刺激ですので、そこから直接ガンや白血病が生じることは現状ではほぼ考えられません。
しかし、単発でなく、アレルギーなどの理由が思い当たらないのに、変に症状が続くような場合、刺激が続いており、放射性物質を継続的に吸入している可能性も否定できません。
こういう状況はさすがによくないと思いますので、私なら被曝防止策や、ホットスポット・線量情報のチェックをより詳細にやったり、行動記録をとったりするでしょうね。

気になる症状が出れば通院すべきなのは当然ですが、通常の診察で、被曝が原因かどうかは判別できません。ですから、症状が続く場合、私なら病状を記録して、念のため血液検査をしてもらうでしょう。
また、そういう懸念を理解・共有する能力のある医師を私なら選びます。


また、甲状腺治療などの際の高線量医療被曝で鼻血が出ないから、低線量で出るわけがない、のような議論は、治療環境と事故環境で同列に比較するというおかしな話で、ほとんど参考になりません。水溶性の放射性ヨードの投与では、鼻粘膜の局部に線源が留まることはありませんし、あえて比較するならセシウム針のような小線源治療がやや近い状況といえるでしょう。

カニズムは推測ですし、未知の要素がある可能性は排除できませんが、今のところこれらの理由から、重大な疾病である可能性は低いけれども、低線量地域で放射性物質により鼻血が出る可能性を否定すべきではないし、できる範囲においてきちんと警戒しておいた方がよい、と私は考えています。
こういう文字通り未曾有の事態において、メカニズムが確定するまで「ない」ものとして扱うというのは、松原望先生が水俣病において指摘した問題そのものです。

もちろん国は第一に福島での対策にあたるべきですから、周辺の対策にどれくらいのリソースを割くべきか、というのはまず、それぞれの事情により個々人が、あるいは自治体等が民主的な話し合いによって、決定することです。
事情が許すならば、協力して発生件数や日時場所などのデータを集めておけば、のちのち役に立つかもしれませんね。



双葉町等を対象にした疫学調査の中間報告で鼻血等が有為に増加

http://togetter.com/li/667009

鼻血や出血に関する過去の報告
映像報告「チェルノブイリ・28年目の子どもたち」
https://www.youtube.com/watch?v=3hv-5bW17Rs
地元住民が訴える健康被害の実態 スリーマイルからフクシマへの伝言
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36881
「黒い雨」被曝者に関する内部資料、通称『オークリッジ・レポート』勝手訳
http://d.hatena.ne.jp/sivad/20120820/p1

参考リンク:
福島原発事故において放出されたセシウム粒子に関する論文
Emission of spherical cesium-bearing particles from an early stage of the Fukushima nuclear accident
http://www.nature.com/srep/2013/130830/srep02554/full/srep02554.html
この論文に関する記事
http://fukushimavoice2.blogspot.jp/2013/09/pm25.html
http://blogs.yahoo.co.jp/satsuki_327/40880543.html
アマゾンレヴューにおける、低線量フォールアウトによる鼻血の議論
http://www.amazon.co.jp/review/R14NNQKO1XPVBU/ref=cm_cr_rev_detmd_pl?ie=UTF8&asin=4594065775&cdForum=FxRRAAZCHWC0N1&cdMsgID=MxRHR8PDB97CWY&cdMsgNo=43&cdPage=5&cdSort=oldest&cdThread=Tx3RI1P5LMWYDSZ&store=books#MxRHR8PDB97CWY
フォールアウトによる局所線量の見積もり例
http://ameblo.jp/study2007/entry-10925145430.html
http://togetter.com/li/666992
空気中の粒子ダストで鼻血が増えるという論文。
Airborne environmental pollutant concentration and hospital epistaxis presentation
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15533154


ちなみに一部放射線医が、放射性ヨード治療で甲状腺癌がでないから被曝は安全、のようなことを述べているようですが、日本甲状腺学会の「バセドウ病131I 内用療法の手引き」では

若年者に131I 内用療法を行う場合は,甲状腺癌の発生の危険性を小さくするため,大量の放射性ヨードを用いるべき

とあり、甲状腺癌に関しては低用量の方がリスクが高い可能性を示唆しています。もちろん疫学的研究により、チェルノブイリでの被曝による甲状腺癌増加は学術的に確立した知見となっています。

*1:http://www.remnet.jp/lecture/forum/08.html

*2:数カ月たった現在ではまた状況が違うかもしれません。