症状としての病気とメカニズムとしての病気

前回について少し補足しておきます。
ある病気についていう時、ごく大雑把に言ってタイトルのような二つの捉え方があります。
たとえば

1.糖尿病
2.インフルエンザ

といった時、1では糖尿や血糖値コントロール不全、そこから生じる障害といった症状をまずは表します。
一方2ではインフルエンザウイルスによる感染症を主に意味し、そこにはすでにウイルスという原因・メカニズムが含まれています。
ただこれは常に変化していることで、糖尿病はもともと「糖尿」という特徴的な症状で捉えられていますが、現在ではメカニズムをもとにして大きく「1型糖尿病」と「2型糖尿病」に分けられています。
症状としては同じく「糖尿」病ではあるものの、

  • 1型は先天性の自己免疫疾患(膵β細胞の障害)
  • 2型は後天性の代謝異常疾患(超複雑!まだ研究途上)

と、まったく異なる原因をもっているわけです。
まあ病気というのはそもそも症状から見つかるものですから、インフルエンザももともとは「流行性感冒」という症状を意味していたと考えていいでしょう。しかし、こういう流行性の感染症の場合は症状と原因(病原体)がわりと一対一で対応させやすいため、症状の名がイコール原因やメカニズムをも表すようになります。
で、「脚気」といった場合どうかということですが。
現在では「脚気ビタミンB1欠乏症」と言う定義がなされているのかもしれませんが、もちろん古い起源を持つ言葉ですから、もともとは「症状」を表していたと見ていいでしょう。
で、その「症状」の中に「衝心」も含まれている、と。
さらにやっかいなことに「衝心」もまた「心不全」という「症状」を表す言葉です。「心不全」って現代すらあいまいな症状ですし、古い時代ではそれこそ心臓が止まれば心不全なわけです。
つまり「脚気」といった時には衝心も含む神経性の多様な症状を、「衝心(性)脚気」といった時でも「脚気」という症状と「心不全」という症状を伴った状態を意味することになります。
こうなると、古い記録の中での「脚気一般」について論じてもあまり意味がないだろうと思います。
いえるとすれば、局所的な大流行が起こった際にはなにかトリガーとなる原因(群)があったろう、ということですね。
で、件の「脚気」流行に関して、
1.その症状がビタミンB1不足のみでは起きにくい主に急性の衝心性脚気であり、
2.マイコトキシンが急性の衝心性脚気と酷似した症状を引き起こすことが分かり、
3.かつその当時マイコトキシンが混入していた可能性が高い
のであれば、その説を排除はできないでしょうね。
ただ、「脚気」も「衝心」も症状なので、やはりビタミンB1不足がその促進に関わっていた可能性は大いにありますし、それ以外の身体的精神的ストレスや栄養不足、日和見的な感染症が実際には重要だったのかもしれません。そこは得られる情報の範囲で推測するしかないわけですが、わたしの見た範囲では栄養上の問題とカビ等の病原体、いずれにおいてもきれいに排除できるとは思えません。
ですから
「過去の「脚気」は全てビタミンB1の不足で説明して足りる」
とするのであれば確かにそれは相当不正確な表現だといえるでしょう。
たとえていえば、
「糖尿病の原因は肥満だ」
というような感じでしょうか。肥満は糖尿病の重要な1ファクターではありますが、十分条件でも必要条件でもありません。
それが偽かニセか、というのは微妙な言葉の定義の問題になってしまいますので、文脈次第です。ただこういう強い言葉を使うのは、わたしとしては水伝のような酷いレベルの、しかもビジネスや公的領域に入り込んできているものに対してで十分だと思っています。
だから個人的には、「ニセ科学批判」というよりは「ニセ科学ビジネス批判」とした方が明確でよいのではないかと考えています。タチの悪いのは大概カネ絡みですからね。
ということで、あとはNATROMさんの解説を待つことにいたしましょう。