高齢化を強みへと変えた「再生のピッツバーグ」

四川地震、まったく人事ではないとはいえ、地震先進国としての日本が蓄積したノウハウを世界に役立たせる大きな機会ともいえます。なんだかんだいって、人間はまだ自然災害すら制御できない存在ですし、情報空間の中で生きることもできません。自然に対するには、やはり地道に自然科学的な知識とノウハウを獲得していくしかないのです。
ところで、地震関連技術は日本の「弱みを強みに」の大きな一例だと思いますが、現代の日本には最大の「弱み」が一つあります。
切込隊長の指摘の通り、それは「高齢化」です。
これを弱み、問題として捉える言説は氾濫していますが、「強み」「チャンス」として捉える視点はまだそれ程は見当たりません。
地震関連に気を取られてすっかり忘れていたのですが、バイオ系で先日、パウダーをつけただけで切断した指が完全に生えるというかなりすごいニュースがありました。豚の組織から製造された特殊な粉末が、69歳の老人の指第一関節から先を4週間で再生させた、というのです。
これ、もし再現性の高い現象ならば、山中先生もビックリクラスの大発見です。なんせ体内にもともと存在する幹細胞を簡単に活性化させ臓器再生ができるのですから、下手をするとips細胞よりも使いやすい。
どこの成果かと見てみると「ピッツバーグ大学」。
なるほど。あまり知られていませんが、ピッツバーグ再生医療では世界トップレベルの実力を持っています。
で、このピッツバーグという都市。日本ではシリコンバレーが大人気ですが、こちらも非常に興味深い経歴を持っています。
例えば立ち上げ屋本舗さんのところに紹介があります。

老人が多い。昔、製鉄関係の仕事をしていた人達が多い。山ほど老人ホームがある。しかしそれを「コスト」と捕らえるのではなく、「強み」と捉えて、ピッツバーグはヘルスケアの一大産業を築き上げた。

ピッツバーグはかつては鉄鋼の町として大いに栄えたのですが、アメリカ産業構造の変化により一転、老人だらけの衰退都市に没落してしまいます。
しかしそこで諦めず、手持ちのカードを最大限活かす戦略を練ったのです。「高齢化」を「機会」と捉えた。

しかしピッツバーグを訪れてみると、昔の「鉄鋼の街」といった風情は、感じられない。水と山と人が共存する、美しい街に生まれ変わっていた。

大学とハイテク企業を中心に、先端的なヘルスケア産業をぶち上げたのです。町並みも変え、教育を充実させました。
シリコンバレーが半ば自然発生的に生じた突然変異株だとすれば、ピッツバーグは意志と戦略によって復活した都市です。

ヘルスケア・ビジネスで挙げた収益を、UPMCは新たなイノベーションのためにつぎ込んでいる。UPMCのWebサイトを見ると、UPMCのミッションが明示されている。

UPMC's Mission:
To provide outstanding patient care to shape tomorrow's health system through clinical innovation, biomedical and health services research, and education. (http: //www.upmc.com/AboutUPMC/AUHome/TheUPMCStory/OurVision/)

恐るべしピッツバーグ。不死鳥のように蘇った街である。

高齢化が進む日本にも、同じようなチャンスがあると信じている。ヘルスケアを、社会的なコストとして抑制するのではなく、国の競争優位の源泉に育て上げる。そういう政策が欲しい。高齢化を逆手にとって、技術開発を進める。そういう研究機関と、ベンチャー企業と、投資家が欲しい。

私も、立ち上げ屋さんのビジョンに賛成します。
もはや、高齢化を「強み」に変えるしか道はない。アメリカも欧州も、20世紀を支えた巨大な高齢化人口を抱えていることには変わりありませんし、その後には中国が控えています。ここで競争優位を取れば、数十年は十二分に戦えるでしょう。
そのためにはまず、医療や介護、IT、バイオ産業、生命科学、社会科学等の態勢を建て直し、「高齢化対策技術」に向けて有機的に連携させなくてはなりません。データを集め、トライを始めなくてはなりません。
ドラッカーの言う「起業家的柔道」の力が今こそ試されているのです。


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