Youtubeで読むジャズ史「東京大学のアルバート・アイラー」(その1)
菊池成孔師匠の例の本読んでます。歴史編、通称「青本」のほうですね。
- 作者: 菊地成孔,大谷能生
- 出版社/メーカー: メディア総合研究所
- 発売日: 2005/05/01
- メディア: 単行本
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本人が言うように、かなり和声主義的な「バークリー史観」ですから異論は多いと思いますが*1、ジャズを手っ取り早く俯瞰するには最良の書ではないでしょうか。特に聴くだけでなく「やってみたい」人向きには随一だと思います。
しかしモノは音楽、ことにジャズ。やっぱり聴いて、見てナンボですよね。
ここは一つ、みんな大好きなYoutubeを使って(Web2.0!)菊池流ジャズ史を追ってみようではありませんか。
プレ・モダン・ジャズ
「モダン」成立以前のジャズです。ブルーズやゴスペル、ラグタイムといった音楽が起源といわれています。いわゆるスウィング・ジャズと呼ばれるもので、ビッグバンドによる演奏が主流でした。
ルイ・アームストロング(Tp)。通称サッチモ。トランペットの奏法を大幅に広げたジャズ・トランペットの父ですね。管楽器を身体の延長として自在に操ったという点ではジャズにおける即興演奏の父といってもいいのかもしれません。
グレン・ミラー(Tb)楽団。アッパーでスウィンギーでメロウ。第二次大戦では戦意高揚音楽として大活躍したそうです。
デューク・エリントン楽団&エラ・フィツジェラルド(Vo)。ジャズの父&史上最高のジャズヴォーカルですね。いやーこれはたまらん。エラカッコ良すぎ。
この頃のジャズはブルーズやゴスペルの影響を受けつつ、ダンス音楽としてのスウィング感を重視していました。またアドリブは入るものの、「フェイク」と呼ばれる飽くまでもメロディーの変形に留まっています。
モダン・ジャズの成立〜ビ・バップ
そして、第二次大戦後。
神いわゆるGOD、チャーリー・パーカーの登場です。
プレ・モダンからモダンへの移行の瞬間を以下の動画で見ることができます。
まずテナー・サックスを渋ーく吹き始めるのがプレ・モダンの巨匠コールマン・ホーキンス。
そしてその後ろで不敵に構えるアルト・サックスこそチャーリー・パーカーです。見るからにふてぶてしいのですが、大先輩ホーキンスのソロが終わるのも聴かず演奏に突入するオレ様ぶりはさすがというか。
しかしそのソロ、明らかにホーキンスのそれとは雰囲気が違います。
スピード感が違う。メロディ感が違う。そして圧倒的なクールネス。
モダン・ジャズの成立です。
二人のソロの大部分はいずれもアドリブで構成されているのですが、その組み立て方が全く違うのです。ホーキンスのそれがメロディを変形した「フェイク」であるのに対し、パーカーの演奏はメロディを一旦コードにまで分解し、そのコードから新たにメロディラインを創造する「インプロヴィゼーション」なのです。もちろんそれをこれほどの高速でやってのけるのはパーカーの天才によるところが大きいのですが。当時まだ20代。
やがてこの方法論に傾倒した数人の若者によって、「モダン・ジャズ」は異様なスピードで発展していきます。
ジャズの理論化・抽象化が始まった瞬間です。
上の動画はパーカーとその盟友ディジー・ガレスピー(Tp)のコンボによる演奏。スゴイ切れ味ですね。
グループ表現とはいえ、スウィング時代とは質感がまるで違います。もはやスウィングというよりドライブ感。そしてアンサンブルよりも、ソロを引き立てることに主眼が置かれました。上のサッチモの演奏と是非比べてみて下さい。
いってみれば「ベンチャー音楽」でしょうか?
これら、パーカー&ガレスピーらによるモダン・ジャズの黎明期を「ビ・バップ(BEBOP)」といいます。
ビ・バップは音楽のゲーム化ともいえます。あるコード進行が与えられ、ルールに従ってそれを再構築する。お題を与えられ、あとはいかに手際よく、センスよくそれを処理するか。そういう競争になったのです。飛び入りで参加して、出演者をノックアウトする。ビバップのライブはそんな鉄火場状態だったともいいます。
ハード・バップの成立
華々しい誕生を遂げたビバップでしたが、比較的短い間に進化の袋小路に達してしまいます。パーカーの方法論は革命的でしたが、それはあまりにもパーカー個人の資質によるところが大きかった。パーカー的な即興演奏はパーカーによって完成されてしまったため、同じ方向への発展ができなくなってしまったのです。
そこで、ソロイズム一色のビバップに対し、ソロとアンサンブルのバランスを考えて総合的な表現力を目指す「ハード・バップ」が生まれました。ちなみにこの「ハード」は「激しい」という意味ではなく、ハードウェアの「ハード」、ハードボイルドの「ハード」と同じ。「堅い、しっかりした」という意味です。
テナー・サックスのソニー・ロリンズ、ギターのジム・ホールらによる演奏です。奔放に即興をしながらも、ビバップと比べてコンボ全体としてサウンドやグルーヴの調和をきちんと保っていることが分かります。
また、ビバップは黒人一色でしたが、ここから白人ミュージシャンが次々と参戦してきます。
デイヴ・ブルーベック(P)&ポール・デスモンド(As)のコンボによる"TAKE FIVE"。5/4拍子の有名曲です。ややヨーロッパを感じさせる、独特のクールネスですね。
そしてこの頃から急速に頭角を現し始めたのが後の「帝王」マイルス・デイビス(Tp)。
うーん、大人の音ですねぇ。
チャーリー・パーカーのバンドにいた若手トランペッターだったマイルスは独立後、パーカーとは違う道を模索します。例えば上の動画ではビッグバンドと共演していますが、スウィングともビバップとも違うクールで知的、かつメロディアスな即興表現を既に獲得しています。
このハードバップ時代は音楽的にもっともまとまりがあり、日本でいう「ジャズ」のイメージに一番近いのではないかと思います。
しかし、ジャズが本当に面白いのはこれからなのです。
その先陣を切るのは上のマイルス・デイビス、というよりほぼマイルスの時代になって行くのですが、さすがに長くなってきたので次回に回したいと思います。
お楽しみに。