マインド・ハックから脳を守る二冊 〜その1・実践編〜

お正月は主に本を読んだり攻殻機動隊S.A.C.を観たりしておりました。
課題図書にしていたのは前から気になっていたコレ。

影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか

いや、噂にたがわず面白い。
これはもう現代人必読の書といっても構わないのではないでしょうか。
基本は心理・認知・行動科学的な原理の紹介と解説なのですが、その中でも社会生活に特に密接に関与する法則に重点がおかれています。著者自身の体験やフィールドワーク、実験や実例も豊富で、なかなか説得力があります。
特筆すべきは、現代に蔓延する強力な心理・認知トリック(広告やマーケティング含む)をしっかり把握し、それらから自分の認識を防衛すべきだ、という著者の姿勢。セールスから軍の洗脳テクまでその手口を幅広く紹介し、対処法にまで触れています。
著者が指摘する、現代において最もよく使用される認知トリックは以下の6つ*1

  1. コントラストの罠
  2. 返報性トリック
  3. 一貫性トリック
  4. 社会的承認
  5. 権威付け
  6. 希少性の罠

以下、簡単に紹介しましょう。
1.コントラストの罠
基本中の基本ですが、意外と忘れがちです。使い方は二つ。

  • 初めに受け入れにくい強い印象を与えておくことで、後のものを受け入れやすくしてしまう*2
  • 逆の印象を初めに与えておくことで、後のものの印象を実際以上に高めることができる

2.返報性トリック

  • ささいなものでも相手に”貸し”を作っておくと、その後の要求を通しやすくなる

この場合の”貸し”は必ずしも相手の望むものでなくてもよく、「押し付け」に近い形でも十分に効果があるそうです。ジュースを出したり、試供品をあげたり。件のアムウェイが最も得意とする戦法だそうな。
高度なテクとして、「コントラストの罠」との合わせ技があります。
これは最初にわざと大きな要求を出し相手に断らせることで心理的に”貸し”をつくり、次の要求を飲ませるという戦法ですな。うーん巧妙。
3.一貫性トリック

  • ささいなことでも、一旦ある方向性に「自ら」同意してしまうと、その方向性に逆らえなくなる

洗脳の際によく使われるテクだそうで、「コミットメントの罠」ともいいます。この場合、最も重要なのは「自分で選んだ」という意識。一旦そういう意識を持つと、その「選択」を正当化する動きが自動的に生じるのだそうです。
朝鮮戦争の際、中国共産党アメリカ兵に使ったのがコレ。アメリカ兵にどんなにささいなことでもいいので、「自ら」アメリカに対して批判的な内容を「書く」ように仕向けたそうです。また、企業の感想文キャンペーンなども同じで、たとえ上っ面であれ自ら何かを評価し、特に「それを形に残してしまうと」、その方向を裏切るのが難しくなるのです。また「限られた選択肢の中からどれかを強引に選ばせる」、なんかもコレに当てはまりますね。
4.社会的承認

  • 自分に似ている(と感じる)人達が言っていること・やっていることに従ってしまう

ご存知、「サクラ」の原理ですね。そして、たとえ「サクラ」と分かっていても効果があるのがスゴイところです。事故や事件が起こったとき、大勢が目撃しても人々が動かないのもこれによるものだといわれています。皆が動かないから動かない、と。
似たものとして、自分に好意を持っている、あるいは自分が好意を持っている相手の要求は断れない、という「好意のトリック」もあります。
5.権威付け
これもお馴染みですね。ゲーム脳とかニセ科学とか。

  • とかく人は「科学」「専門家」「プロ」など、権威の「イメージ」に弱い

その内容と直接関係のない「権威」であっても、信頼すべきだと思ってしまう。
権威が出てきたら、その権威と内容との関係、そしてそもそも権威自体の信頼性についても考えてみる必要があるってことですね。
6.希少性の罠

  • 少数のモノを多くの人が取り合う、という「状況」に人は自動的に熱狂してしまう

最近もありましたね〜。某ゲーム機とか。あるいは「勝ち組に乗り遅れるな!」みたいなのもコレに当てはまりますね。状況に操作されるのではなく、そのモノや行動自体の価値についてよく考える必要がありますな*3

これらのテクは人間の認知の機械的反応」に働きかけ、その行動を操作する際に用いられます。一種の思考のクセのようなもので、「そういうクセがある」ことに気づかなければ他者に簡単に利用されてしまいます。逆に、クセというものは「自覚」することで意思によって自ら矯正することも可能です。その点が動物の「本能」と異なる点でしょうね。本能や衝動をやたら強調する人もいますが、それっていわば「機械的反応」なわけで、他人に一番利用されやすいものなんですよね〜。
ただ、こういった認知の「機械的反応」は常に「悪」なわけではなく、複雑な環境で生活するためにはある程度必要なものなのです。全てを一から考えていては時間も労力も足りませんからね。
しかし社会の情報量が増えるにつれ、こういった「機械的反応」に頼る場面も増えざるを得ず、それを「悪用」する者も増加している。それが著者の危惧なわけです。
私がWeb2.0とやらに感じる危険性もまさに同じで、 岡田斗司夫の「洗脳社会」や東浩紀の「動物化」も基本これと同様なのではないかと思います。
現代において「他者」の情報はそこら中に溢れていますが、まず知るべきは「自分」である、ということなのかもしれませんね。
関連:
Web2.0の逆説
Web 2.0の踊り場について

続き:マインド・ハックから脳を守る二冊 〜その2・基礎理論編〜

*1:一個追加しました

*2:逆に、強く良い印象を初めに与えてしまうと、後のものが実際以上につまらなく見えてしまう。

*3:他にもいろいろと重要な例が出てきます。是非ご通読を。